今日、ヨーロッパやアメリカを中心に、国境警備隊が陸路や海路から入国をしようとする難民を排除したというニュースをよく耳にします。
そんな中、今日は先日(2019年4月)Oxford University Press から発売された本、Refuge Beyond Reach(D.S. FitzGerald 著)という本をご紹介します。

Contents
どんな本??
この本は、難民条約に基づき難民と認められた人の受け入れを義務付けられているアメリカ、EU、オーストラリア、そしてカナダといった、いわゆる自由主義国家と言われる国々が、どのようにして難民の入国を阻止し、排除しているかを著しています。
….と聞くとすごく堅苦しそうな本に聞こえるのですが、法律や表に出る政策といったつまらなそうな話はなく、密約、そして裏工作といった国民国家の黒い部分がよく見える内容です。
さらに、最近、創始者のジュリアン・アサンジ氏がロンドンで逮捕され話題になった団体、Wikileaks(ウィキリークス)が流出させた政府機関の極秘資料なども使われている点もかなり生々しいです。
なぜ難民の入国を阻止したいのか?
東西冷戦時代、難民と言われる人は相手陣営から(主に旧ソビエト連邦から西側諸国に)くる政治難民を指していました。
彼らの多くはお金持ちで、才能がある人材とみなされていた上、相手陣営に対する自分たちの正当性を主張するためにも大切な存在でした。
つまりは冷戦時代、難民と言われる人々は歓迎された人たちだったのです。
今の時代からは想像もできませんよね?
ただその東側陣営の崩壊とともに冷戦構造が終わると、難民の政治的価値も薄れます。
加えて飛行機といった、テクノロジーの発展とともに長距離移動が簡単になると、今度は南側諸国から戦争や国家機能が破綻した国から難民申請者が安全な西側諸国を目指すようになりました。
彼らは以前の難民のように、政治的価値もなく、経済的に貧しい南側諸国出身者が多いため、国家は彼らを単なる「負担」と位置づけ、受け入れを渋るようになります。
これが今日まで続く、難民が忌避される大きな理由の一つです。
では、なぜ難民は西側諸国を目指すのでしょうか?
それは「領土に入国することで、はじめて難民申請が可能になるから」です。
人道ビザの発給、または避難先の周辺国から第三国定住制度を通して安全な西側諸国に移住することも可能です。
しかしそれらの手続きは一般的に2年以上の期間がかかる上、全世界の難民の内の1%しか認められないとても狭い門です。
つまり、たとえ違法で危険な手段をとったとしても直接西側諸国に入国した方が、出身国によっては難民として認定される可能性が高いのです。
それが今日、多くの難民申請者がヨーロッパやアメリカに移動する理由です。
難民を排除する5つの手法
では、望まない難民申請者に対して自由主義を掲げる西側諸国はどのような対策をとっているのでしょうか?
それはいわゆる「遠隔操作政策」と呼ばれる、国家の主権を自分の領土の外まで無理やりのばす手法です。
ここからは、Refuge Beyond Reachに紹介されている、ケージング、ドーム、バッファ、モート、バービカンという5つの手法を解説します。
ケージング(封じ込め)
最初のケージング、これはすなわち、難民キャンプなどに代表される難民の封じ込め政策と言えます。

例えば今日630万人もの人々が国外に避難しているシリアを例にとると、その多くがトルコ、レバノン、ヨルダンといった周辺国に暮らしています。
自由主義国家は、それらの国にお金をつぎ込み、難民の生活を安定させることで彼らをそこから離れないようにする、ある意味鳥をかごに閉じ込めておく政策をとっています。
これをケージングと呼びます。
ドーム(空路の封鎖)
次のドームとは、空路を封鎖することで難民申請者の入国を防ぐ手法です。

これは大きく2つの手法に分かれており、一つ目はビザの発給自体を制限するという手法です。
「日本は世界最強のパスポートを持っている」と以前ニュースにもなりましたが、日本人は世界全227ヵ国の内、189ヵ国にビザなし渡航が可能です。
それに対して紛争や争いの絶えないアフガニスタン、イラクといった国々の人は、30ヵ国にしかビザなしで渡航ができません。
これは入国した人がその後難民申請をすることを防ぐ目的もあります。
二つ目は、航空会社に圧力をかける手法です。
政府は、もし航空会社が正規のビザを持っていない人や偽装パスポートを持つ人を渡航させた場合、政府に対して多額の罰金を支払わなければなりません。
この圧力を通して、航空会社に出発の前にビザの有無の確認を徹底させています。
バッファ(隣国への圧力)
3つ目のバッファとは、日本語で「緩衝」といった意味ですが、これは隣国へ圧力をかけて難民申請者の通過を止めるという意味です。
先日、アメリカのトランプ大統領がメキシコに対して、「不法移民の取り締まりをしなければ経済制裁を科す」と述べたとニュースになりましたが、これがバッファの良い例です。
自分たちの領土に来る前に、その手前の国で管理してもらおうとするのがバッファというやり方です。
これはEUが難民の海路からの流入を防ぐためにトルコと協定を結んだことや、オーストラリアがインドネシアと協定を結んでいるなど、多くの例があります。
隣国は協定を通じて貿易協定や開発援助などをしてもらえるメリットもありますが、西側諸国はその代わりに難民申請者の管理という泥仕事を隣国に押し付けています。
モート(公海上での拿捕)
4つ目はモート(moat=堀)、公海上での管理です。
領海内に入ってしまえば、それは国によっては領土に入ったことと同じで難民申請が可能になりますが(ちなみにアメリカは領海=難民申請可能な領土とは認めていません)、公海上ではそうもいきません。
沿岸警備隊は、通報があれば公海まで乗り出し、領海内にいれないため船を送り返すということをしています。
これは最近、ロヒンギャ難民が多くの国で入国を拒否され、公海上をさまよっていたことでも有名になった手法でしょう。
この公海上でのオペレーションに関しては今まで多くが隠されていましたが、今回ウィキリークスの流出資料などから、アメリカがキューバ難民に対して公海上で難民の乗った船を拿捕して送り返したり、カナダやオーストラリア、EUの国々も似たようなケースがあると分かりました。
バービカン(グレーゾーンの設置)
最後はバービカン、国境地帯や空港のトランジットゾーンといった、グレーゾーンの設置です。
このバービカンという言葉、日本語では「都市の外防備」といった意味がありますが、城壁に囲まれた都市という主権が届く範囲の一つ外にグレーゾーンを設置し、入る人が問題ないかチェックする場所でした。

これと同じように、国境地帯の一つ前に非公式の検問所を作って難民申請をしないかをチェックしたり、空港のトランジットゾーンという、「まだ入国をしていないから難民申請はできない」という言い分が通用する場所を作ることを言います。
しかも、これは入国前に送り返されるために、難民申請者の統計にも反映されません。
そのため、空港における難民申請は実態が分かっていないことから「ブラックボックス」とも呼ばれています。
最後に・・・
今日は、Refuge Beyond Reachという最近出版され、難民研究者の間でも注目されている本をご紹介しました。
私自身、昨年この著者の方の講演を聞いてすごく衝撃だったのを覚えており、発売される前からAmazonで注文していました。笑
著者のD.S. FitzGerald は、これら政府の隠された非人道的行いへの対処も記しています。
まだ邦訳の話はありませんが、英語が読めて興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
今回は以上です!何か質問・ご意見がありましたら遠慮なくコンタクトからご連絡ください。
大変興味深く、読ませていただきました。
難民の流入をくい止めるための先進諸国のいくつかの手法を理解することができました。先進国は表立っては綺麗事の様相ですが、本質は意地汚いですね。時間がかかりますが、難民を始め外国人を受け入れ、取り込んでいく国は長い目で見ると必ず発展していきます。ドイツは多くのシリア難民を受け入れましたが、20〜30年後には、新たな発展が生み出されてくると思います。
日本も、この点に早く気が付いて欲しく思っております。
コメントいただきありがとうございます!
表では綺麗ごとを並べていても、裏ではそうとう汚いことをしているという事がこの本の分析から分かりますね。日本はもっとあからさまにやってますが。。