『存在のない子供たち』(映画評)★★★★☆

レバノン人のナディーン・ラバキ監督作品『存在のない子供たち』

今月から公開されているイギリスの映画館で今日、この映画を観てきました。

現在はNetflixの一部地域に公開されています。早く日本のストリーミングサービスでも観られるようになるといいですね!

あらすじ

場所はレバノンの首都ベイルートの貧民街。

親に出生届を出してもらえず、「何者でもない」12歳のゼインは、学校にも通わず近所の商店で働いていた。

ある日、11歳の妹サラハがその商店の年上の男と結婚することになり、逆上したゼインは家を飛び出し海沿いの街へとあてもなく向かう。

海沿いの街で出会った、エチオピアから出稼ぎにきていて、妊娠したことにより不法滞在となってしまったラヒールに拾われ、ゼインは彼女の赤ちゃん(ヨーナス)の世話をすることになる。

ある日、ラヒールが警察に捕まってしまったことでゼインとヨーナスは二人だけになってしまう。

作品について

『存在のない子供たち』の原題は「カペナウム」と言い、これはアラビア語で”混沌”という意味です。

2018年、是枝裕和監督の『万引き家族』が最優秀賞(パルムドール)を受賞したカンヌ国際映画祭にて審査員賞を受賞。2019年のアカデミー賞では外国語作品賞にもノミネートされました。

監督のナディーン・ラバキはレバノン人の女性監督。以前は俳優としても活動しており、いくつかの映画にも出演しています。社会正義を目指し選挙にも出馬しましたが落選しています。

主人公のゼインは、本名もゼイン・アル=ラハフと言い、ラバキ監督がベイルートの街で見つけたシリア難民の子どもです。作中のゼインと同じく彼も学校には通ってはいませんでした。撮影の後、ゼインくんは家族とともに、国連の第三国定住プログラムを通してスウェーデンへと家族とともに移住しました。

ラバキ監督は彼に対してほとんど台本を用意せず、彼も感じたままに演技したとのことです。

また、エチオピア移民のラヒールを演じたヨルダノス・シフェロは、自身も世界最悪の独裁国家の一つであるエリトリアからから逃れた難民です。彼女は撮影途中、実際にレバノン警察に拘束され、2週間留置場で過ごしたそうです。

【ネタばれ注意!】映画レビュー

貧困、児童婚、人身売買、薬物、不法移民、そして難民。ベイルートの中を渦まく世界の不条理を『カペナウム』は見事に描いています。

無駄に脚色もせず、ひたすらこの混沌の渦の中で翻弄されながら住む人々を描いたドキュメンタリーにも近い作品です。

途中に笑えるシーンもなく、ひたすら150分間今日も地球上で起きている不条理を見せつけてくるので、あまり慣れていない人には心が疲れるかもしれません。

(実際に私は実際にヨルダンで会ったシリア難民の方たちも重なり、観終わった後2時間以上考え込んでいました)

ただこの胸を押し潰されるような現実から目を背けないでほしいです。

一点だけ批判があるとすれば、最後の、人身売買の組織に売られたヨーナスが無事に母親であるラヒールと再会するシーン。

不法移民という立場であるうえ、赤ちゃんであるヨーナスも言葉が話せないのにどうやって結び付けることができたのかが少し非現実的な気がしました。最後に観客を救うという意味では成功かもしれませんが、完璧に現実を描いているとは言えないかもしれません。

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