こんにちは。今日は海外から移民に関連した国際条約のニュースをご紹介します。
12月10日、モロッコの首都マラケシュで開かれた国連の会合で「国連移民協定(正式名称:安全で秩序ある正規移住のグローバル・コンパクト)」が採択されました。
今日は初の移民の保護・対処を定めた国際的な枠組みである「国連移民協定」について解説します。
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「国連移民協定」とは?
12月10日、モロッコの首都マラケシュにて、「国連移民協定(英語名:Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration)」が、日本も含めた150ヵ国以上の賛成を経て採択されました。
移民に関する初の国際的な枠組み
今日、世界には2億5,800万人もの人々が移民として、自国の外で生活しています。この数は全世界の人口に対して約3%にあたります。
この数は2000年から比べて50%上昇したことになります。
しかし国連が発足して以来、これら自国の外で暮らす人々を保護する国際的な枠組みというのは存在してきませんでした。
根拠は2016年の「ニューヨーク宣言」
その現状を受けて2016年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた「難民と移民に関する国連サミット」で採択されたのが、「ニューヨーク宣言」でした。
「ニューヨーク宣言」では、難民と移民の保護強化や難民を受け入れている国の支援強化を明記しました。
そしてそれを国際的な枠組みとして初めて批准されたのが、今回の「国連移民協定」です。
「国連移民協定」の中身は?
ポイントは2つ+α
「移民協定」の目的は23項目ありますが、ポイントを絞ると大きく分けて2つ(
+α )になります。
- 移民の国際的な保護
- 不法移民の取り締まり強化
- (+α)「移民する権利」は明記なし
移民労働者の保護
一つ目は、移民をローカル、国、地域、国際的なレベルで保護する、というものです。
例えば、2022年のW杯開催が決まっているカタールですが、そこの建設現場で働くスリランカからの労働者の搾取が国際的に大きく問題になりました。
その他にも、教育や健康サービスへのアクセスを保証すること。さらには移民、特に移民労働者を滞在国の国民と同様の権利で扱うこと。
これら移民として渡っている人々を包括的に保護することが最初の重要なポイントです。
不法移民を防ぐ
次のポイントは、不法移民を防ぐことが書かれた点です。
ゴムボートなどを使った地中海の危険な横断が2015年頃からニュースになりましたが、「国連移民協定」ではこのような違法な密航の取り締まり強化に向けた国際的な協力も書かれています。
また、彼らの安全な帰還を保証することも明記されています。
「移民する権利」は明記せず
最後に重要な点は、この協定には「移民をする権利」は明記されていないということです。
これが明記すれば最悪、受入国は求められれば移民を無制限に受け入れなければならなくなり、国家の安全保障も危ぶまれます。
難民は国際的な保護が義務付けれている対象ですが、これに該当しない移民の「移民する権利」が書かれなかったことは、注目に値します。
反対国も多数
アメリカはトランプ政権に代わった2017年12月に「主権の侵害」を理由にニューヨーク宣言から脱退を決めましたので当初から不参加が分かっていました。
しかし今回はアメリカ以外にも、オーストラリア、オランダ、オーストリア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、ポーランド、ドミニカ共和国、チリ、ラトビア、スロバキア、エストニア、イタリアといった主要国も会合への参加を拒否したり、協定への批准を拒否した国が多く出ました。
この状況に対して、国連のグテーレス事務局長は会見で、
移民はいつも我々とともにあった。しかし今日の世界にとって移民は、不法や危険なものでなく、よく管理され安全なものでなければならない。…国内政治としての移民管理は、国際的な協力のもとで成し遂げられる。
と述べました。
法的拘束力はなし
さらに重要な点は「国連移民協定」には実質的に法的拘束力がないということです。
これは国際条約全般に言えることですが、条約に反したことをしても裁く法廷がないため、「自己義務」として守ることを期待することしかできません。
なのでこの「移民協定」を批准したところで、それに沿った国内法を制定しない限り効果は薄そうです。
最後に…
この「国連移民協定」、世界で初めて国際的な枠組みができたという点では一定の評価はできます。
ただ書いたように法的拘束力がないことからも、あまり実質的な効果は期待できないでしょう。
多くの主要国が参加や批准を拒否したことから、今後も移民や難民といった問題には多くの不合意や対立が出ることが予想されます。
その中で翻弄される移民や難民の人をしっかり保護できるよう、今後も国際情勢を注視していく必要があります。
今日は以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました!